青山ひろし35歳の春第6回

皆さ〜ん、こんにちわ〜!エコ通ステーション窓口スタッフのエコ助です。いよいよマラソン小説「青山ヒロシ35歳の春」の佳境に入ってきましたね。皆さん読んでいただいてるでしょうか?

できれば、みなさんの感想やご意見をいただけると、作者エコ助としても、とても心の張りがでてくるのですが・・・^_^;

ど〜ぞ最後までお付き合いくださいね・・・。

あ、そうそうお知らせです。エコ通ステーション閉館までアト残り一月半となりまして、今エコ通ステーションでは、閉店セールを実施中です。在庫一掃のセールですから、勿論これまでになくお安くなっております。

サイクルジャージは1000円〜2000円台中心ですし、その他グッズ、例えば、シリコンライトは100円。その他500円、1000円のグッズも多く、只今どんどん売れています・・・。

昨日平安神宮で開催された、グレートアース京都ライドにもエコ通ステーションのブースが出店して、飛ぶように売れたようです。

是非、皆さんのご来店を心よりお待ち申しております。

はい、では、「あおやまヒロシ35歳の春」第6回の始り始り〜・・・d(^O^)b

「何、考えてんの?本番は今週の日曜日だよ!まさか、本番前にして、びびってんるんじゃないだろうね」
「何ゆーてまんねん!このあおやまひろし!びびるなんて!そないなこと一切ありまへんで!」
「ほー、えらく威勢がいいじゃないの」

「・・・・・・・・・実は、もう走るのがいやになりましてん。ただ、ただ走るだけなんて、あんまり面白ないし、わし、本当はスキーの方が好きやし、今週の日曜日にぽん友とスキーに行く約束しましてん。」
「・・・・・・・・・・・」

「部長が毎週日曜日に誘いに来るさかい、我慢してましたけど、本当は、いやになってましたんや!部長に申し訳なくて、なかなか言えへんかったさかい、黙ってましたけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・なんてこと言うの、あおやまくん。随分がっかりさせてくれるじゃないの・・・」

「すんまへん。それで、申し訳ないんでっけど、わしの代わりに走ってもらえますやろか?」
「僕がかい?」
「えー、部長にはいろいろ親切にしてもろうたし、参加料もけっこうですから・・・・・・」
「そー!君にはがっかりしたけれど、せっかくやし、勿体無いから、代わりに走らせてもらうよ・・・・・」

「部長!おーきに!・・・・・ただし!」
「ただし?」
「わてと三つの事を約束してくれまっか!」
「三つの約束?」

「そうだす、三つの約束だす!」
「代わって走ってやろうという人に対して、えらく、えらそーな事いうんやね!」
「まーえーから、聞いておくれやす!」

あたりかまわず、大きな声で話す二人の様子に、周囲の社員達は耳をそばだてて二人の会話を聞いていた。その中で、土方だけには、事の成り行きとあおやまひろしの心情を理解していたのであった。

「一番目の約束は、絶対に入賞したりしないこと!」
「なんのこっちゃ!」
「そやかて、万が一入賞でもしはって、テレビのインタビューや新聞に写真が載ったりしたら、部長の顔があおやまひろしの名前で出るやないですか!わての方が部長より数倍えー男前やさかい、困るんですわ!」

「あのね〜・・・あおやまくん・・・・」
「えーから!最後まで聞いておくれやす!」

「二番目に・・・・・・これが一番言いたいころなんやけど・・・・・・。来年こそ京都マラソンを一緒に走ってください・・・・・・」

「だって!君!さっき、もうマラソンは嫌いになったゆーたやないか!まさか・・・・まさか・・土方に・・・」

部長が最後まで言う前に、その時すでに、二人のそばに立っていた土方が部長の肩をたたいて静かに言った。
「部長、ここはあおやまはんの言うとおりにしてあげてくれまへんやろか、私からもお願いしますわ」
土方は、部長の肩に手を載せたまま、あおやまひろしを見つめて何度もうなづいた。あおやまひろしの目にうっすらと涙が浮かんでいた。

「あおやまくん・・・・・・・」

部長も、その言葉にすべてを理解し、あおやまひろしを見つめた。
「最後に、部長は京都の街は好きやけど、京都の人間はどうも信用でけへん、といつもゆーてはったけど、どうぞ、街だけやなく、京都の人間も好きになっておくれやす!」

「あおやまくん・・・・・・・。本当は・・・・・・」

部長の瞳にも、あおやまひろしと同じように涙の光が宿っていた。
「わての名前のついたゼッケンをつけて部長が走る。それなら、二人で走っているのと同じやないですか。いつも二人で練習したんやから、それが一番いいんですわ!」

あおやまひろしは、とうとう抑えきれなくなった自分の感情をさらに押し殺そうとして下を向いた。涙が足元に落ちたのを見た時、これ以上言う言葉を見出せなくなった。

「それだけですわ!ほな、やり残した仕事がまだありまっさかい、これで失礼します!」
「おーきに、おおやまくん!しかし、実は・・・・・!」

「部長!来年の京都マラソンの日に部長が広島から出張できるように、わて、でかい失敗やらかしますさかいに!」
「何言ってんの!あおやまくん!もうこれ以上君の失敗の尻拭いはごめんだよ!それに、本当は・・・・」

部長の最後の言葉も聞かずに、あおやまひろしは、会社の外にでた。外には明るい春の光に満ち溢れていた。

「もう、すっかり春やな・・・・。いっそ今週末は本当にスキーにでも行こかいな」
と独り言をいいながら、明るい春の空を見上げた。

「でも、やっぱり、コースのどこかで、そっと部長が京都の街を走る姿を応援しよ〜っと」

そう心に決めたら、ふっと心が軽くなった・・・・。

しかし、結局、部長はその年の京都マラソンを走ることはなかったのであった・・・。

青山ひろし35歳の春第5回

「あおやまはん、いてるか?」
「あー土方はんでっか、まいどおおきに」
「おおきに」

「また、わざわざうちまで足を運んでくれはって、一体何事でんのん?」
「いやな、あおやまはんにだけはちょっと話しとこ、と思うことがあってな、うちの部長のことなんやけど」
「へー部長はんでっか、最近毎週日曜日に一緒に走ってまっせ」

「そうやてな、それで、ちょっとあおやまはんの耳にだけは入れた方がえ〜思うて、きたんやけどな。これ絶対時期がくるまでは秘密にしてもらわなあかんで」
「へー、またえろ〜たいそうなことでっか?」

「そうや、うちの部長が広島の本社から京都に単身で赴任してきはって丸四年たつのやが、実は今年3月末の年度変わりに、広島に戻ることに決まったらしいんや。」
「えっ?ほんまでっか?」

「ほんとや!おととい部長から、本社から内示があったと聞いたんや」
「・・・・・・・・・・・」
「あおやまはん、どないした?」
「いや、あんまり急な話しやよって、言葉がでまへんのや」

「そうやろな、わしかてこの話し聞かされたときは同じやった。そりゃまー、ちょっと強引なとこもあるし、わがままなとこもあったけど、なにせ仕事にだけは熱心なお人やったし、けっこうあれで社員達にも慕われてはった。わしかて、同じや。それにな、あおやまはんは知らへんと思うけど、あおやまはんがいくら失敗しても、いつもかげでかばってはったんや」

「そうでっか・・・・全然知らんかったわ。いつも怒られてばかりで、きっつい部長やと思うてたんでっけど」

「最近では、日曜日になると、あおやまはんとつるんで走ってはると聞いてたしな。それで、部長にはきつく口止めされてんのやけど、わしの判断であおやまはんだけには言うといたほうがえ〜かと思うてな。わしがこの話ししたこと、絶対にゆうてもらたらあかんで。部長、広島に帰る一週間前に公表するゆーてたさかい・・・・・・」

「土方はん、えろーおおきに、その話し聞かせてもろうて、よかったわ」
「そうか、ま、そういうこっちゃよってに、あおやまはんの胸だけに収めておいてや」
「へーわかりました」

そのアト、少し仕事の打ち合わせをして、次長は会社に戻っていった。

あおやまひろしは悩んだ。今度は真剣に悩んだ。ちょっとやそっとでは結論が出そうにないほど悩んだ。

ひょんなことから、それまで全く関心のなかった京都マラソンに出場することになった。そして、少しづつ走り始め、ウエアやシューズも買い揃え、本確的に走り始めた。「代わってやろうか?」と何度も部長に言われ続けたが、こればかりは譲れなかった。

あの部長のことやから、土方次長と組んで今回のことを仕組んだということも充分考えられる。それくらいの駆け引きは平気でやる人である。京都マラソンが終わったあと、「あれ!土方君がそんなこと言ったの、何かの間違いじゃないの!」と済ました顔でいる、ということも充分に予測された。

仕事上の得意先の部長に反発してまでも、走ることにこだわってきた。そして、その部長はあおやまひろしのコーチとなり、熱心に指導してくれた。あおやまひろし35歳はどうしても走ってみたかった・・・。

しかし、この厳しい業界であおやまひろしがここまで仕事をやってこれたのは、あの部長のおかげと言ってもいい。部長は四年も単身赴任で頑張ってきた人である。その部長が毎年楽しみにいていたのが、この京都マラソンであった。

そして、今年の春には、また広島に転勤するという。京都の街を走れるチャンスも今年が最後かもしれなかったのだ。そして、抽選に落ち、最初はあややまひろしを脅して、自分が代わりに走ろうとした。それが無理だとわかると、今度はあおやまひろしのコーチをかってでて、あおやまひろしを完走させようとした。

普段は「京都の人間は何を考えているか、ようわからん」というのが口癖であったが、「でも京都の街は大好きだ」といつも言っていた。その部長の言葉に心の中では反発していたが、得意先のトップということで、いつも表立って反論もしなかった。

「京都の人間は信用できない」と思われたまま、京都を去られるのは京都人として少しつらい気もした。少なくとも部長は京都の街を愛してくれた人であった。愛する家族と別れて、一人ぼっちで知らない街で4年間も頑張ってきた。自分がもし、家族を残して広島で一人暮らしをしなければならないとしたらどうであろう。

自分には京都マラソンを走る機会は、これからも何度かあるだろう。代わってあげてもいいかもしれない。

しかし、来年は今度は自分が抽選に漏れるかもしれない。あるいは、なにかの事情で走れなくなるかもしれない。どうしても、今年走ってみたい。毎朝早起きして、練習してきたのだ。あおやまひろしの悩み深かった。

あおやまひろしは、次長が訪ねてきた日から三日後の木曜日に部長の会社に顔を出した・・・。

「部長いてはりますか?」
「おー、あおやまくんじゃないか、どうしたの、今週初めての顔見せやないの。ちゃんと毎朝走ってるの?」
「部長、まいどおおきに、ちゃんと走ってまっせ」
「そうか、よい子よい子、それこそ僕の弟子や、でもね、そろそろレース本番に向けて体をやすませとかないといけないね。明日とあさっては練習はしないほうがいいね」

「へーそういうもんでっか、でも、走ってへんとまた不安になりそうですわ」
「だから素人衆は困るんだよ。休息をとるのも、りっぱな練習なんだよ」

「部長、すんまへん!」

「なんだよ、いきなり、あおやまくん。また仕事で失敗したの?いつまでたっても、君はあかんたれ職人やね〜。今度はどんな失敗しでかしたの?」
「いや、仕事で失敗したのと違いまんねん!実は誠に申し上げにくいんでんが、わて、京都マラソン走られへんようになりましてん!」

「むっ?何?冗談だろ?なんでまた?ははは、そうか、うちの土方が、急な仕事を押し付けたの?大丈夫!僕に任してよ!お〜い!土方く〜ん!」

「いえ!部長!違いまんねん!わての方の都合でんねん!」
「都合って?君、あれだけ楽しみにしていた京都マラソンを走れないほどの都合なんてあるの?」
「実は・・・・・・・」

「田舎の母親の命日で、今週末に田舎に帰らなあきまへんのや・・・・」
「田舎って、どこ?君、確か五代続いた生粋の京都の職人や言うてなかったっけ?」
「え?ま、そうですが、その・・・・・・。そや、相方の方の母親でしたわ」

「奥さんかい?奥さんのご両親には、去年の暮れに三条商店街でお会いしたはずやけど、いつ亡くなったの?」
「えっ!そうでしたか?」

「そうでしたかって、その時君も一緒に歩いていたじゃないの!」
「そ、そうでしたね・・・」
「やだなーあおやまくん、お義母さんを勝手に、自分の都合で殺してどうするの!このおばか!」
「おばか?」
「そう、おおばかモンや!」

・・・つづく

青山ひろし35歳の春第4回

彼は悩んだ、それほど深く悩んだわけではない。ちょっとだけ悩んだというべきである。

制限時間内に走りきれる自信はない。かと言って、京都マラソンを走る権利をあの部長に手渡す気にもなれない。やはり自分の足で走ってみたい、という結論に達するのに、それほど時間はかからなかった。

そう結論に行き着いてしまうと、いっそう日々の練習に力が入った。1日に7〜8キロの距離がいつの間にか12キロまで伸びた。疲れは蓄積するが、それはいままでにない疲労感であった。夜は早く眠ってしまう。それでも一晩の睡眠で、疲労は回復した。このサイクルの中で、前向きな生き方が再生産され、何事においても積極的になれた。

「あおやまくん?僕だけど、わかる?」
「えっ?部長でっか?」
「そうに決まってるじゃん!僕だよ。今日はなにか予定ある?」
年が明けたある日曜日に例の部長から電話が入った。

「別にこれといった予定はありまへんけど、ちょっと走りに行こうかなと思っていたところです」
「そー丁度よかった。君も知っているとおり、僕は京都ちょんがー暮らしだからさ、一緒に練習でもしようかな、と思ってね電話してみたんだよ。どう、今からそっち行くから、一緒に走りに行かない?」

「え!部長とでっか・・・・・・。そりゃまあ、別にかまいまへんけど・・・・」
「気が進まないようだね。でも、いろいろアドバイスもしてあげたいしさ、ね、一緒に練習しよう、ね。いまから、そこまで行くから待っててね!」
「はーわかりました。ほなら、準備して待ってます」

部長は、15分くらいたってから、あおやまひろしの自宅にあわられた。そして二人で鴨川の河川敷に向かった。こうして、毎週日曜日なると部長と一緒に鴨川の河川敷で一緒に走るようになった。それまで、足の赴くままに漫然と走っていたあおやまひろしではあるが、練習にもいろいろな種類があることを知った。

部長はいちいち、ていねいに走り方を教えてくれた。給水の摂り方まで指導してくれた。
「えーか?こうやって紙コップを折って、飲み口を作れば飲みやすいやろ」
「な〜るほど、ほんまそうでんな」

いよいよ2週間後に京都マラソンが迫ってきた日曜日に二人で、コースの試走をした。試走のアト、平安神宮の鳥居に到着したアト、あおやまひろしは、部長に聞いてみた。

「部長は、なんでこんなに熱心に僕と一緒に練習をしてくれはるんでっか?」
「ふ〜、今日はけっこう疲れたね・・・・くたくただよ・・・も〜だいぶ・・・・いやね、君に是非完走してもらいたいからさ。」
「そーかて、最初は、自分に代われって、ゆーてはったやないですか。今でも、そう思うてはるんちゃいまっか?」
「そうやね、その気持ちもないこともないが、今では、本当に君に完走してもらいたいと思ってるよ。自分で走って完走するのも嬉しいとは思うが、一緒に練習した君に完走してもらうのも同じように嬉しいような気がしてね。今では本心からそう思ってる。京都の街での思い出作りだよ」

「えっ?なんでっか、えらい部長に似あわへんこと言わはるやないですか?」
「いちいちうるさいね。だからいいの!頑張って完走してよ!完走できなかったら、仕事減らすよ!」
「うへー!やはりちっとも変わってまへんわ!」

「まったく口の減らん弟子や!でも、今の君の実力なら、充分完走できるはずや!次にスタート直後のバトル状態での格闘技を説明するわ」
「え!マラソンって格闘技でっか?」
「そ〜や、格闘技や。えーか、右から膝が飛んできたら・・・・・」

こうして平安神宮の大鳥居の下で、蹴りや突きや受けの練習を始めた二人は、周囲を歩く人達に少し恐怖を与えながら、昼過ぎまで練習を繰り返したのであった・・・。

おおやまひろしは、だんだんこの部長が好きになってきた・・・・。

仕事の上では、いろいろこまかな注文をつけて、あおやまひろしを困らせる事もたびたびだったが、いざ、一緒に走るときには、的確なアドバイスで解りやすく指導してくれた。

それに、部長の熱心な指導なおかげで、なんとか完走できる自信らしきものもついてきた。今では、制限時間内での完走が目標というよりは、4時間30分くらいで走る事が目標となっていた。

京都市条例違反の裏技、「人を捜すふりをして」、さっさとスタートラインの前方に素早く移動するという技も身につけた。

とは言っても、初マラソンである。本当に部長の言うように走れるかどうかは走ってみなければわからないという不安はぬぐいきれなかった。

11月に273キロを走りこみ、12月はとうとう300キロを超えた。忙しい仕事をこなしながらの練習であったから、ここまで走れるようになったことに誇らしい気もする。生活も随分変わった。夜は早く寝て、朝早く起きだして走りにでかけた。

いよいよ今週末がマラソン本番という月曜日の朝、いつものように早朝練習をすませて、仕事をしていたら、部長の会社の次長が、あおやまひろしの職場に顔を出した。この次長はもっぱら、部長の右腕と言われている人で、この業界ではけっこう名前の知れた人であった。

大手商社を定年退職したアトに今の会社に再就職した人で、例の部長も、この人にだけは何でも相談して決めるという噂の人だった・・・。

青山ひろし35歳の春第3回

あおやまひろしは毎日例の部長の会社に顔をださねばならない。これは仕事であるから仕方がない。
今日も気が進まないまま、「まいど〜」と会社扉を開けた。できれば、部長とは顔を会わせたくない。部長が抽選に漏れた日から、顔を見るたびに「ねちねち」といやみを言う。

「あおやまくん、毎日ちゃんと走っているの?毎日走らないとだめだよ。なにせ、京都マラソンを走るんだから。僕は走らないけれど」といった調子である。

「本当は部長と走りたかったんやけど」と愛想を言っても、どうも気持ちが収まらないらしく
「抽選には実力は関係ないしね、運だけだもん」と、諦めきれない様子で皮肉めいた言葉を返す。
とりつく島がない状態であった。

そそくさと、仕事上の担当者のデスクに向かう途中で、運悪く部長と出くわした。
「あおやまくん、どうしたの、まずは走りの恩人に挨拶に来ずに仕事だけ済ませるつもり」
「いや〜部長はん、毎度おおきに、先に用事を済ませてから、部長のところに顔をみせて、いろいろマラソンの件で、お話を伺おう思うてたんですわ」
「そ、じゃあ、あとで僕のデスクまで来てね。僕もいろいろ聞きたいこともあるし」
「ほな、またアトで」

仕事上の打ち合わせを担当者と済ませ、仕方なく部長の席に向かった。
「よー、やっと来たか、こちらにどうぞ」

部長席の近くの打ち合わせデスクに座るように指示される。
「よーこちゃん、あおやまくんにコーヒーを入れてあげてね!」
近くの女性事務員に指示する。こんなことは珍しい・・・・・。

「今月は何キロ走ったの?」
「今のところ月半ばで100キロってとこですかね」
「え〜!頑張ってるんじゃん」
「そうでっか?」
「そうだよ、りっぱりっぱ!で、ちゃんとレース当日までのトレーニング計画はたててるの?」
「え!そんなもんいるんでっか?」

「いるんでっかて、あおやまくん、何いってんの?」
「・・・・・・・」
「だから、困るんだよね、素人衆は!」
「しろうとしゅう?」

「そうだよ、恐れを知らない素人衆って怖いんだよね」
「へーそういうもんでっか?」
京都マラソンの制限時間って知ってる!」
「なんでっか、せいげんじかん?」

「全く、いちいち説明しなくちゃならないの、いやだなー。いい、ちゃんと聞いてよ。フルマラソンだからあおやまくんは42.195キロ走るんでしょ、たとえば、平均1キロ7分で走ったとすると、約300分だから、5時間で完走できるわけです」
「キロ7分でっか?きつそうやな〜」

「その≪キロ7分≫っていう言い方やめてくれる、豚肉買うんじゃないんだから!≪豚ロースキロ980円閉店間際の大特売!≫ってスーパーまつもとのちらしじゃないんだから、ったく!」
「えろーすんまへん」
「京都シティーハーフの制限時間は6時間以内だから、これならセーフなんだよ」
「つ、つまり一キロ7分のペースで走れば、問題ないわけでっか?」
「そう!そういうこと!」
「もうちょっとまかりまへんか?」

「・・・・・あのね〜、さっきも言ったでしょ!ミートショップ弘で値切っているわけじゃないの!」
「ひぇー!そんなまじに怒らんかて・・・・・・」

「じあ〜あおやまくんだから、もうちょっとおまけしてあげまひょ!一キロ8分で走ったとしたら、何分かかる?」
「えーっと、ちょっと電卓貸してもらえまっか、・・・・・340分やさかい、5時間40分でっか?」
「そうその通り!ごめいさん!」
「はーなんとか8分ならいつも走っているペースでっさかい、頑張ればなんとかなりそうでんな」

「とっころが!そーはいかの金玉!」
「きんたま〜!?!?」
「そう、きんたま〜!!!」
「部長、えらい下品でんな〜」

「いちいちうるさいね!いい?16000人の以上ランナーが一度に走り始めるんだよ!素人衆はわからへんと思うけど、≪よ〜いどん!≫の合図が鳴ってもだね、君がすたーとラインをまたぐのに、何分かかると思う?」

「想像もつきまへんわ!」
「そうでしょ!まあ10分はかかるわな」
「そんなもんでっか?」

「そう、そういうものなのよ、これは京都市の条例でね。ゼッケンの順番に並ぶわけ。君はゼッケン7000番台やから、ずーっと後方からのスタートになるね。この順番をごまかして、前に並ぶと、即、京都市条例72条の第3項、京都マラソンスタート位置違反の罪で、懲役3年または、執行猶予5年の刑で逮捕やね」
「そんなあほな!」

「あほ言うたな!あほ言うたやつがあほや!」
「子供みたいな人やな、ほんまに!疲れるわ!」

「なに、ぶつぶつ言っているの?まあーいいや。まず制限時間の6時間から10分を引いたら、5時間時間50分だね?実質的にはそれが君の制限時間になるわけ!」
「はー、5時間50分ならま〜、何とか・・・」

「ところが、スタートラインを過ぎても、まともに走れるわけもなく、西京極陸上競技場を出てもま〜5キロ先の松尾橋までは、もうごったごったの状態やから、思うように走れへん!そのアトもしばらく団子状態が続くから、その状態が悪くすると、嵯峨野を出るまで続くわけ!」
「想像もつきまへんわ!」

「だろうね〜!ごちゃごちゃやから、前のランナーの後ろ蹴りは飛んでくるわ、後ろのランナーの手や肘が飛んでくるわで、もう乱闘状態になるね。もう、バトルロワイヤル状態で、まるで生きるか死ぬかのサバイバル消耗戦やね!」
「ひぇー!そんな殺生な!部長はん、これ京都市の主催でっせ!そんなあほな!」

「あおやまく〜ん!!僕に向かって又「あほ!」ゆーたね!」
「あっ!えろーすんまへん!部長!堪忍しておくれやす!」
「まっ、僕は心の広い人間やさかい、そんなに気にしてへんけど・・・・」
「部長・・・・その割りにこめかみに青筋がたってまっせ!」
「うっ、うっ、うるさ〜い!!!」
「すんまへん!」

「えーか、京都マラソンでランナーの集団が通過したアトのコース上のすさまじい光景を想像してみい?集団の中でぼこぼこにされて気絶したランナーがあっちこっちに倒れているんやで!まるで応仁の乱のアトのような光景や!」

応仁の乱?部長は応仁の乱見たことおますのんか?」
「・・・・・・誰に向かって、ため口たたいてるの?また切れるよ!」
「はー、すんまへん!」
「ったく!・・・・」

「ところが、その状態でハーフを過ぎて、北山通りまでくると、キロ8分ペースが、がくんと落ちるな〜・・・。さらに鴨川の河川敷で30キロを超えたところで、さらにペースが落ちると思うよ。やから、ハーフを過ぎて残りの距離21キロの平均タイムがキロ10分から、悪くすると12分ぐらいかかると思うよ・・・。

すると、スタートしてからスタートラインを過ぎるまでのロスタイムが10分。前半のハーフがキロ8分かかったとして、約2時間50分だね。そして残りのハーフがキロ10分として3時間30分・・・。合計すると6時間30分で、制限時間アウト、って〜ことになるね〜・・・。さらに、途中トイレの行列に並んだり、エイドで補給食を取ったりしてたら・・・」

「ひぇー!そんな殺生な・・・とほほ」
「でも理論上はそうなるわな〜・・・」

「だからね、あおやまくん、それなりの計画をたてて、練習しないと、完走は難しいというわけだよ、わかるね」
「はー・・・・・・」

「まーいきなり素人衆が完走ペースで走ったら・・・・・・・」
「は〜?」
「ちょっとこの先は言えないね・・・」
「そんな、部長〜、途中までゆうといて先をいわへんやなんて、あんまりでっせ・・・・」
「いやね、あんまり、厳しいこと言って、君の純粋な決意に水を注すようなことも言えないしね・・・・」
「大丈夫やから、どうかゆーてください、この通りだ、お願いしま!」

「そう?じゃ言うよ、素人衆が完走ペースで走ったら、まず、・・・・」
「まず・・・」
「死ぬね・・・」
「え?なんかいわはりました?」
「だ・か・ら・・・・死ぬ!っちゅーとんじゃわれ〜〜〜〜!!!!」
「ひぇー!、ぶちょう!失礼しま〜す!」

「ちょっと、あおやまく〜ん!突然どうしたの!そんな逃げるように帰らんかてえーやないの!お〜い!おおやまく〜ん!」
「そやかて・・・・わて、死んでまで走りとないし!!!」
「だ〜か〜ら、ここはいっちょ、僕が代わりに走ってあげようか、ゆーとるんじゃ!どう?代わってあげようか?」
「ちょっと、よ〜考えてきまっさ!ほな、さいなら!」

あおやまひろし35歳は、逃げるように会社をたち去ったのであった。

「青山ひろし35歳の春」第2回

京都マラソンの抽選発表の時期が来た。

そのころには「あおやまひろし」もすっかりランの魅力に取り付かれ、走ることの楽しさを充分感じていた。京都マラソンへの参加を勧めてくれた、あの「上品な広島弁と下品な関西弁(?)を使い分ける部長」に感謝もしていた。

「ほんま、よいことを教えてくれはった」
と感謝する毎日だった。

ラソンの情報誌を買って読むと「京都マラソン」はかなり有名なマラソン大会であり、全国のランナーの憧れレースであることがわかってきた。また、それだけに抽選に当たることがなかなか難しいということもわかってきた。去年の当選確率が50%だということもわかってきた。「走ってみたいなー」という思いが日に日に高まってきた。

京都マラソンのために、ちょっと高めのジョギングシューズやランニングウエア、ウィンドブレーカーも買った。いろいろ調べると、けっこうマラソングッズにも細かいアイテムがあるらしい。

ストップウォッチ機能のついてる時計なぞは当たり前で、ペースメーカー機能やラップタイム計測機能、GPI機能付のものまであるらしい。もっと細かいことを言えば、ランニング用のサポーターパンツ、ウエストポーチ、手袋、靴下まであるらしい。

元来、業(なりわい)が職人であるから、一度打ち込むと、とことんまで行く性分である。もう少しいろんな大会に出るようになったら、いろいろ凝ってみたい・・・と思った。ゴルフやスキーに比べると、グッズにそれほど金がかからないだろうと踏んでいたのは間違いで、凝りだすとそこそこの費用はかかるようであった。

「大体、靴下なんぞ、どんなもんでも関係ないやろう」と思うのだが、ランニング専用の靴下がなぜ走ることに効果があるのかさえ今はわからなかった。

とうとう、抽選の結果が発表される日がやってきた。

例の部長によると、発表方法はメールと郵送されてくる郵便物でわかるらしい。

「当選」のメールが先に届いた・・・。

大昔、堀川高校を受験した時に、合格発表を見に行った時のような、喜びがと高揚感を久々に味わった・・・。

「あたりや!」
あおやまひろしは京都マラソンへの出場を、即座に心に決めた・・・・。

翌日、あおやまひろしは取引先の会社の部長にお礼を述べようと、得意の三輪バイクにまたがって出かけた。このあたりは京都人らしい「律儀さ」を大切にする性分が出た。かといって京都人が「律儀」というわけではない。「体面を保つ」ことが大切なだけなのだが、かといって不正直ということでもない。

なにしろ、あおやまひろしは「根っからの京都人」なのである。それが体面を保つための行動であるかどうかさえ意識していない。世話になった人には御礼を述べるという行動規範が身にしみているだけなのだ。

「部長、おかげで京都マラソンに当選しました!ありがとうございました!」
とふかぶかと頭を下げた。

部長は不機嫌そうな顔であおやまひろしを迎えた。
「そう、それはよかったじゃない。おめでとう・・・・・。とにかく頑張ってね・・・・・・」
と素っ気なく応えた。

「あの〜〜〜部長はん、どうでしたん?」
「えっ!・・・・・・・えらく応えにくいこと聞くじゃん」
「ははは、また〜部長なんか機嫌悪ろうおますな、機嫌よく、よかったね!一緒に走ろうね、ゆうてくれはっても、えーのんちゃいまっか?」
「あおやま君、それってどういう意味?」
「せやさかい、部長と一緒に都大路を走れると・・・」
「お黙り!」

ようやく、あおやまひろしにも、部長の不機嫌な理由がわかってきたのであった。
「部長はん、ひょっとしてはずれでっか?」
「えっ!・・・・・・そーだよ。はずれだよ。それがどうしたの?悪い?」
と、少し卑屈に逆襲してくる。

「別に悪いことはないんですが、・・・・・ただ部長と走りたかったな〜と思っていたもんで・・・・・」
「!!!!」
「何せ、今回、京都マラソンを奨めてくれはったんわ、部長でっさかい。それに、ちょっと走ってみて、走る楽しさも少しわかってきたような気がして・・・・・・」
「・・・・・・・」

「いえっ!勿論部長のレベルとはえろー違うことはわかってま!」
「・・・・もういいよ、あおやまくん、物事は簡単に考えるべきじゃないか?君はあたりで、僕ははずれ。それだけのことだよ、えっ?そうだろう?」
「まあ、そういうことですが・・・」
「だから、君は都大路を大手を振って走り、僕はこそこそ歩道を走る。それだけのことだよ」
「・・・・・・」

「何年も走ってきた僕は、大手を振って走れず、最近やっと走り始めた君はえらそ〜に走る。それだけのことだよ」
あおやまひろしは、部長の不機嫌さから身をかわすべく、
「まあ、部長、お互い頑張りましょう!」
と話しの筋から外れた応対をして、いそいよと会社を抜け出して、外に出た。

「何を頑張んだよー!」
という叫ぶような声が、追いかけるよ〜に、背中から遠く聞こえてきた・・・。

「あおやまひろし35歳の春」第1回

「あおやまひろし35歳」とは、いかにも京都に住んでいそうな人の名前ではないか。実際彼は京都市中京区に実在する。彼は京都生まれの京都育ちであり、堀○高校卒業後、地元で職人としての道を選んだ。今では、三条商店街の近くに職場を構えて、伝統技能の職人として生計をたてている、りっぱな京都の人である。

家族は、妻一人(当たり前)長男長女の子供二人に年老いた母親を養っている。趣味は車とスキーである。仕事一筋という昔ながらの職人のライフスタイルとは少し違うが、仕事に対する誇りと片意地さは昔ながらの京都の職人の伝統を受け継いでいる。

「あおやまひろし」は今年の春、出入りしている得意先の会社の部長に「あおやまくん、運動は何かしてるの?」と話しかけられた。
「冬場のスキー以外は別にこれといって何もしてまへん」
「そう、僕は毎朝走っているんだけど、運動はこまめにしたほうがいいよ、生活習慣病的にもあぶない年頃なんだから」
「そうでっか、そのへんはようわかってまんねんけど、仕事が忙しゅうて、なかなか・・・。大至急の無茶仕事がけっこう多いもんで」

「なにそれ?暗にうちの会社の悪口ゆ〜てんの?」
「いえそんな・・・滅相もおへん・・・」

そんな日常の会話が始まりだった。そのうち、その部長(広島からきて単身赴任暮らしをしているらしい)と何度か同じような会話をしているうちに、「京都人でありながら、京都マラソンに出たことないなんて、恥ずかしくない?」という会話にいきついた。
「別にそんな風に考えたことはおまへんけど・・・・・・」
「それがいかんと思うな。京都人なら、一度は走ってみるべきじゃないかな〜・・・」
「そんなもんでっか?」

となり、「早春の都大路のど真ん中を自分の足で走るなんて、普通は考えられないでしょ?」と説得された。

「一緒に走ろう!絶対後悔させないから」と言われ、極めつけは
「このレースは抽選なんだから、もし当たっても、どうしても走る気になれないなら、参加料を振込まなければいいんだから、申し込みだけしておいてもいいんじゃないの」と言われて、その部長の言うとおりにネットで申し込みをした。

いざ申し込みをしてみると、少しづつ走ってみようかという気になってきた・・・。

最初は仕事の合間に少し家の周りを走ってみた。体力がかなり落ちていることを自覚して、少しショックを受けた。近所の顔見知りの人に会うのも少し恥ずかしい。
「あおやまはん、なんかあったんかいな」
「お宅のご主人、走ってはったなー、えーなー、うちの主人もあおやまはんを見習ろうたらえ〜のになー」と言われたりした。

日曜日には少し長い距離を走ってみた。そんなことを繰り返しているうちに、走る事が楽しくなってきた。「あおやまひろし35歳」は、徐々にもし抽選に当たったら、京都マラソンで本気に走ってみようかという気になってきた。

来年の春まで、まだかなり時間がある。「もし当選したら、本当に走ってみよう」と決心したのであった・・・。

閉館まで、いよいよ残りアト三か月・・・(-_-;)

4月20日をもって、エコ通ステーションの閉館まで、残り3カ月となりました・・・。

今週は4月の月末週ですが、先月の月末の時も、エコ通ステーションの常連さんが、何人かエコ通との契約を解約されました・・・。

そうでなくても3月は年度末で、別れの多い季節と言われます。転勤があったり、引っ越しがあったり、あるいは卒業や入学の季節で、お別れの多い時期です。特にエコ通ステーションの7月20日閉館の発表で、客様の御事情おいろいろもあるようで、仕方ないこととはいえ、スタッフのエコ助としては、寂しい限りです・・・(-_-;)

出来れば、エコ通ステーション最終営業の日まで、常連のお客様たちと共に、楽しい日々を送っていきたいエコ助なのですが、それはワガママというものですよね・・・(-_-;)

それはわかっているのですが、やはり寂しさばかりが先だってしまって、ついつい落ち込んでしまうエコ助なのです・・・(ToT)

さて、そんな寂しい日々の中にも、今日はひとつだけ嬉しい事がありました。

先週から、エコ通の新しいスタッフに仲間入りした「コンスタンティン」さんと今日は一緒に仕事をさせていただきましたd(^O^)b

コンスタンティンさんは、ルーマニヤから日本語の習得のためにやってこられた留学生で、すでにこれまで、英語、フランス語、スペイン語を習得されている、語学の才能のあふれたルーマニア人男性です。

今は「漢字」に興味を持って、「漢字」の勉強をされているそうです。

多分、研修終了後は、週三回程度、夜の部のシフトに入るようになると思われます。

非情に明るく、仕事熱心で、笑顔の素敵な男性です。

愛称は「コンスティ」だそうです。皆さんどうぞよろしくお願いします

さて、話は変わりますが、いよいよ、以前このブログで公表したよ〜に、エコ助が書いた「マラソン小説」を、これから不定期でこのブログで、連載したいと思っています。7月20日の閉館の日まで、どこまで連載できるか分かりませんが、可能な限り続けますので、どうぞよろしくお願いします。

今週中に初回分をアップするつもりです。

題名は「青山ひろし35歳の春」です・・・。どうぞお楽しみに